2015年12月28日月曜日

映画『キングスマン』・・・ 英国流スパイアクションの定番がやって参りました

●原題:Kingsman: The Secret Service
●ジャンル:アクション/アドベンチャー/コメディ
●上映時間:129min
●製作年:2014年
●製作国:イギリス
●言語:英語
●カラー:カラー
◆監督:マシュー・ヴォーン
◆出演:コリン・ファース、タロン・エガートン、マイケル・ケイン、マーク・ストロング、サミュエル・L・ジャクソン、ソフィア・ブテラ、スフィ・クックソン、マーク・ハミル、その他大勢

【ストーリー】
 イギリス。どの政府にも属さない独立諜報機関キングスマン。エージェントのハリーは、ある事件をきっかけに、かつて作戦の最中に命を落とした同僚の息子エグジーをスカウトする。不良同然ながらも父親の血を継ぐだけあってエグジーには十分な素質があった。一方、キングスマンはアメリカのIT実業家ヴァレンタインが世界規模の陰謀を企てていることを察知。ハリーとエグジーは捜査に移るが・・・。



【感想と雑談】
 実に素晴らしい。こういうリズムを持った作品ってホントにいいものです。根底が幼少の頃に胸踊らせた007シリーズのユーモアと奇想天外さであって、それを近代的な脚本と技術で底上げしてるという、

 イギリスの面目躍如ですよこれは。

 伝統と規律を重んじる精神のもと、紳士たる身だしなみから繰り出す壮絶なアクションは、これぞ静と動を併せ持つイギリスというやつではないですか。同じ英語圏のヒャハーなアメリカよりも、日本に通じるものがありますね。この諜報機関は、まさに世界を相手にする必殺仕事人です。名作『レモ/第一の挑戦』('85)もそんなお話しでした(笑)。

 政府の指揮下に公正性がないことを嘆いた財閥は秘密裏に諜報機関を設立しますが、その本拠地に選ばれたのが伝統ある高級スーツ店キングスマンなのです。店内では趣きある調度品が落ち着きを醸す一方、超技術によるギミックが仕掛けられていて、紳士エージェントの表裏と同様に、ローテクとハイテクの対比が鮮明で目を見張るところです。これぞイギリスにしか出せない魅力というやつ。



 スパイといえばの小道具も粋なものばかりで、紳士傘が武器と盾を兼ねてるところはいかにもです(笑)。ケレン味溢れる点では小道具だけでなく、密かに建築された広大な施設も外せません。後半の舞台となるヴァレンタインの根城も下僕たちを見下ろすようにガラス張りの司令室が設置してあって、ここでドンパチやるとか懐かしい空気が充満しまくりです。

 主演はイギリス側のコリン・ファースと重鎮マイケル・ケイン。このコンビは新旧スパイやクライム関連の繋ぎ役でもあるようですね。マイケルは古くからスパイ作品の常連だし、主役の絵画泥棒を演じた『泥棒貴族』('66)のリメイク作品『モネ・ゲーム』('12)ではコリンが主役を演じてましたしね。

 また、若手役者も揃えてエージェントの世代交代まで描いてる辺り、ロートルな世界で終わらせないフレッシュさは今風といったところですね。昔ながらの007って幼い時期が描かれていなかったので斬新といえるのかも。最近の007はシリアスにそんな路線に入ってる気はしますがね。

 スパイアクションには魅力ある悪役も欠かせません。アメリカ側のそんな期待を裏切らないIT実業家ヴァレンタインを演じるは我らがサミュエル・L・ジャクソン。ニヒルでもなんでもなく、狡猾で変なところで気弱なヒップホップ野郎。今時の申し子みたいでよろしい。しかし今回のサミュエル、『ジャッキー・ブラウン』('98)の銃器密売人に戻ったかのような若々しさなんですが、なんと今年67歳なんだとか!見えないぜサミュエル。



 本作の最大の見せ場はなんといっても主人公ハリーの身のこなし。イギリス人の血統を醸しながらの戦闘シーンが素晴らしすぎます。同じイギリス人のマシュー・ヴォーン監督だからこその手腕でしょうか。独特のスピード感とワンカットのような巧妙な編集、そして縦横無尽なカメラワークによる一大殺陣はカタルシスの連続。粋なBGMがこれまた拍車をかけます。演じるコリン・ファースもよくあれだけ体が動いたもんです(全て本人が演じたと信じたい)。『96時間』シリーズはちょっとは見習って欲しい。

 ちょっと笑ってしまったのが、ヴァレンタインの女用心棒があるエージェントを迎え撃つところ。この女用心棒、両足が刃物を備えた義足になっていて、新体操みたいな技を繰り出すの。で、このエージェントが一瞬で唐竹割りにされるのね。ペローンって真っ二つ。安すぎるCGがまるでワザとやったかのようで、きっと『殺し屋1』('01)へのオマージュもあるに違いない。

 また、見た後で笑ってしまったのが、マーク・ハミル。出てたの全然気づかなかったです。かなり前面に出ていた人物なのに。言われてみればたしかにマークの面影あったような・・・。最新のスターウォーズを見る前に、本作で近況のお姿を拝んでしまいました(笑)。

 マシュー・ヴォーン監督は、経歴をみてみれば、なるほどクライム系の作品群を手がけられていたのですね。コミック原作の映画化に力を入れられているようですが、前作の『Xメン:ファースト・ジェネレーション』('11)よりも、『キック・アス』('10)での小気味よいユーモアとアクション性が更にパワーアップして帰ってきた感があります本作は。お勧めしたい逸品です。


 ちょっとスーツを着こなしてみたいと思いました。


 さて、今年はこれが最後の記事となります。素敵な作品で締めることができてよかったです(笑)。しかしまあ、ブログも8年目に突入とか、よく続いているもんです。あとどれだけ続けられるかな。。
 迷いこまれた方にちょっとでも役に立てればと来年もとりあえず頑張っていこうと思います。

 それでは来年も皆様にとって良い年となりますように。


(C)20th Century Fox Film Corp. All rights reserved
【出典】『キングスマン』/ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

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2015年12月16日水曜日

映画『モンスター上司2』・・・ 今度はハラスメント上司でなく悪徳起業に戦いを挑みますアホ三人衆が

●原題:Horrible Bosses 2
●ジャンル:コメディ/犯罪
●上映時間:108min
●製作年:2014年
●製作国:アメリカ
●言語:英語
●カラー:カラー
◆監督:ショーン・アンダーソン
◆出演:ジェイソン・ベイトマン、チェーリー・デイ、ジェイソン・サダイキス、ジェイミー・フォックス、ケビン・スペイシー、ジェニファー・アニストン、クリストフ・ヴァルツ、クリス・パイン、ジョナサン・バンクス、リンゼイ・スローン、その他大勢

【ストーリー】
 アメリカ。ニック、デール、カートの三人は、にっくき上司らと決別し、自らが職場の上司になるべく会社を起こすことにする。発案したシャワー用品を売り込もうとやっきになる三人は、ある大企業から莫大な注文を受けるも、そこの悪徳社長の策略によって大借金を負うことになり、工場設備や特許までも失う寸前となる。意を決した三人は、悪徳社長の息子を誘拐し身代金を巻き上げようと策略するが・・・。



【感想と雑談】
 前作は劇場公開されたのに、本作は未公開だったのですね。気付いたらレンタル屋に並んでいました。しばらく後回しにしていたのですが、改めてパッケージを見てみると、なんとクリストフ・ヴァルツが出てるじゃないですか。即決ですよこれはもう。しかしまあ、シリーズ失速の法則は免れないだろうな、と構えていたら、

 意外や楽しめたという。

 前作に引き続き、三人の主役にジェイソン・ベイトマン、チェーリー・デイ、ジェイソン・サダイキス、相変わらずの憎まれ元上司役にケビン・スペイシー、ジェニファー・アニストン、悪友の犯罪アドバイザー(笑)役にジェイミー・フォックスという、よくやったぜと思えるところに、新キャラとしてクリストフ・ヴァルツとクリス・パインまで起用するとか、随分とゴージャスな布陣になっています。

 前作では、名優らが嬉々と演じるハラスメント上司をいかに楽しく懲らしめるかに見所があったはずなのに、急激なハードボイルド展開に熱も覚めちゃった感じでした。なので今回の続編ではちょっとは気の利いたコメディらしさを期待していたのですが、これがまったく同じといってもいいくらいの展開。またかよ急激ハードボイルドだし。



 しかし、これが面白く感じました。前作で受けた犯罪コメディの妙な印象も咀嚼するうちに耐性ができて作品全体のリズムを楽しめるようになったのかもしれません。なにこの自己分析。きっとこれは、本筋関係なく三人のアホさ加減と、それを加速させる脇役のボケとツッコミを楽しむべきシリーズなのです。過激大好き細かいことは気にすんな、というアメリカ人の偉大なノリも見え隠れします。

 コメディアンらが三本矢となって暴走機関車のように作品を牽引する様はウザさを通り越して(笑)言うことなしです。ここでは脇役らに注目します。まず続投のケビン・スペイシー、ジェニファー・アニストン、そしてジェイミー・フォックスらが失速せずに全力投球しているのが素晴らしいです。特にジェニファーの自助会を壊滅させる程のエロ依存症をもって主役の三人を虜にしてしまう演技はコメディエンヌの最高峰といってもいいでしょう。メイキングで見せる、どうしてもクチにできない台詞で恥じらう様も至高です。

 続いて本作で新参の脇役の一人。悪徳社長の息子を演じるクリス・パインは、さほどいい印象のない役者だったところ、初めて等身大な姿を見た思いです。って、こんなキャラは等身大とはいわんか(笑)。コメディ作品だからか、生き生きとした様が好印象となりましたよ。カーク船長なんかより、もっとこういう役やれ。



 今回、興味を引くきっかけとなった脇役のもう一人。悪徳社長を演じるクリストフ・ヴァルツ。もう言うことなしに大好きな役者であります。タランティーノ作品『イングロリアス・バスターズ』('09)での何ヶ国語もこなすナチス高官の嫌らしさといったら、彼以外に誰が演じることができたでしょうね。独特で流暢な言い回しの中に表裏を垣間見せる様が真骨頂で、欧州生まれが持つ迫力みたいなものも感じます。そんなクリストフは本作でも実に嫌らしい悪役を好演していました。

 前作でハラスメント上司を持つことに嫌気の差した三人は、会社を起こすことで自らが上司になりますが、悪徳起業に道を閉ざされたことで、再びドタバタと走り回ることになります。あまりのピンチさに、元の上司や悪友にすがりつくものだから目も当てられない。でも、なんだかいい感じ。むしろ前作よりも好きな流れかもしれない。

 ハードボイルドに至る展開は、ハラスメント上司に対するより、ビジネス上の悪意に対する犯罪計画からの方が、違和感なく納得もいくんじゃないでしょうか。コメディであれば尚さらです。監督が変わったことで演出や雰囲気にも差が出ていますが、潔く犯罪に手を染めることで、スピード感やスマートさがあるし、ハードボイルドもどんでん返しになってるところがいいですね。こういうテーマのコメディにしては一線を超えすぎな点は変わらずですが、総合的に私は続編の本作を推したいです。


 シリーズを通して歯ブラシの粋な扱い方を学びました。


(C)2014 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
【出典】『モンスター上司2』/ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント

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