2012年6月4日月曜日

映画『悪魔の植物人間』 ・・・マッドサイエンティストといえば、お約束の人類改造計画

●原題:The Freakmaker
●ジャンル:ホラー/SF
●上映時間:92min
●製作年:1974年
●製作国:イギリス
●言語:英語
●カラー:カラー
◆監督:ジャック・カーディフ
◆出演:ドナルド・プレザンス、トム・ベイカー、ブラッド・ハリス、マイケル・ダン、ジル・ヘイワース、 ジュリー・エーゲ、オルガ・アンソニー、リサ・コリングス、スコット・アンソニー、その他大勢

 6月ですね。鬱陶しい梅雨の時期であります。今年はどんな雨模様になるのかな。そんなに無理して降らんでいいからな梅雨。しかし、今年ももう半分近くまできちゃったんだ。早いな。
という訳で今回は、ジメジメし出すこの時期にピッタリの作品です。

【ストーリー】
 イギリス。ある大学で植物と人類の突然変異について熱弁をかますノルター教授。彼には野望があった。それは人間と植物を掛け合わせた新人類を誕生させることであった。教授は見世物小屋の奇形男リンチに、まともな姿に戻すことを見返りとして学生を誘拐させ、生体実験を繰り返す毎日を送っていた。実験は失敗の連続であった。無残な姿となった瀕死の学生は、見世物小屋の客寄せにとリンチが引き取っていた。やがて、実験は成功し、待望の植物人間が誕生するが・・・。



【感想と雑談】
 古きよき英国産の怪奇ホラー作品です。

 初めて観たのが、だいぶ昔にテレビ放映された時で、なんともいえない余韻が残ったのを覚えています。暫くして、ある場面が問題視されるようになって、放映はされなくなり、ビデオ版もひっそり消えていってしまいました。

 それが先日、いきなりレンタルされているのを発見。ビックリしました。発禁扱いかと思っていたのに。これはフル全開で観直さなければいかん、という訳で借りてきました。

 オープニングタイトルでは、ナショナルジオグラフィックをガサガサにしたような画質で、植物の成長過程を早回しで映すのですが、どんよりしたBGMが拍車をかけていて、早くも先のことが思いやられます。暗いんだこれが。キノコもにょきにょき。

 イギリスのどこぞの大学では、ノルター教授が植物の性質について鼻息荒く講義をしています。演じるのはドナルド・プレザンス。この名前を聞くだけで安心ができ、作品も引き締まって見えます。何故だ(笑)。昔からSFやホラー畑の印象が強い役者さんです。

 このノルター教授、人間も植物のように光合成だけで生きていければ、争いも資源不足も起きない平和な世界が訪れると確信し、夜な夜な自宅の研究室で生体実験を繰り返します。いわゆるマッドサイエンティスト。傍らに生えてる巨大なハエトリ草にウサギを生きたまま放り込みます。まさに適役ドナルド・プレザンス。


(手前左と、その後ろの右から1人目と3人目。至高の女子学生3人衆です。)

 調達される実験用の人間は、大抵が教授の教え子たち。本作では男女5人が事件に巻き込まれますが、ここでは内3人の女子学生に注目。なんといずれも美人か可愛いときている。特に栗毛の子が。ポイントといってもいいくらいに素晴らしいです。正直、大学生には見えない老け顔ですが、そんなことはどうでもいいです。ファンになりたいくらいです。『おっぱいゾンビ』('10)は見習って欲しい。

 誘拐され全裸にされた女子学生(栗毛)は、ノルター教授から注射を打たれ、東宝特撮の自衛隊が使うような極太ビーム砲の照射を浴び続けます。やがて植物人間へと変異する女子学生。しかし重体となり、実験は失敗に終わります。失敗作は近所の見世物小屋へ連れていかれます。トカゲ女と称され見世物にされたその姿は・・・そう、ドナルド・ダックを叩いて伸ばしたような姿。お気に入りの栗毛が・・・(;ω;)。

 なんだかんだ頑張った教授は、遂に男子学生を使って実験を成功させます。しかし、残念なことに早々に植物人間に逃げられてしまいます。それでも、懲りずに女子学生を誘拐し、再度実験しようとすると、教授の元に逃げたはずの植物人間が戻ってきます。その姿は・・・ってパッケージ写真に載ってました。まあ、そんな姿です。ノルター教授と女子学生の運命やいかに・・・。

 70年代といえばのホラー作品なので、カタルシスなクライマックスを迎えることはありません。マッドサイエンティストが迎える妥当な運命でしょう。しかも、ローテクな特撮映像をラストに画面は暗転します。当然の絶望的なオチですが、これはこれで味わい深いものがあります。まあ、今時のホラーを期待すると肩透かしを食らうでしょうが、実は他に見所のある作品なのです。


(仲間の誕生パーティを開催。楽しそうです。)

 それは、本作が問題視される要因となった、見世物として登場してくるフリークス(奇形)たち。ノルター教授の共犯者として登場する長身の顔が崩れたフリークス男のリンチは、特殊メイクを施した役者トム・ベイカー(メイクが見事なので本物に見える)が演じていますが、彼以外のフリークスは全員が本物なのです。

 見世物小屋で生活する彼らを見世物としてだけでなく、ちゃんと台詞を与え、普通に生活している様を映しています。そこに悪意を持った視点は一切ありません。マイノリティな容姿を持っただけで、一般の社会から外れ自らを晒すという行為で生計を立てる彼らも、立派な人格をもった普通の人間です。

 当時は、こういう描写も映画として認められていたようですが、時代が人権やモラルに敏感になったことで、人目に晒すことを問題と捉えるようになったのでしょう。それは今でも続いていることと思いますが、彼らを封印するような行為や考えは改めるべきでは。本当は対等に向き合うことが大事なんだと思います。こういう観点は今に始まった訳ではないですが、本作を観直して、改めてそう思うようになりました。

 一応、ホラー作品なんですけどね、彼らへの愛情もテーマになってるんじゃないでしょうか。顔にコンプレックスを持つリンチも、顔を治したい一心でノルター教授と共謀し、それが負い目となって仲間にあえて攻撃的になっているように見えます。そんな彼が風俗に行くと、店の女は顔を見てもちょっと驚いただけで「平気。男はくよくよしないの」と言います。商売だけじゃない女の優しさが感じ取れたのは自分だけでしょうか。ここでのリンチの要求が、女にただ「愛している」と言って欲しいだけ、というのが泣かせます。

 原題はフリークを創る人。ノルター教授とリンチのこと。どんなに科学が発展しようが人類には慎重に接しないと大きな代償が伴うという教訓と取りましたが、どうでしょうか。なんとも奥深い作品でありました。パッケージ写真を見て鼻で笑うだけというのは、惜しいことかもしれません。


(女子学生が実験台。教授のお手伝いをしたい、とちょっと思ってしまいました。笑)

 フリークスを扱った作品では、他に『フリークス』('32)や『センチネル』('77)という作品も有名ですね。どちらも本物のフリークスが出演されていて、前者は本作の元祖とも言える見世物小屋を描いたドラマで、後者は地獄の門番として登場するホラー作品。どちらもDVD化されました。レンタルはされていない気配ですが、それでも目にすることができるのは素晴らしいことだと思います。


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【出典】『悪魔の植物人間』/ニューライン

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4 件のコメント:

  1. こんにちは。

    これはまたいい性格のマッドサイエンティストですね。こういう目的のために何が起ころうとも突き進む人は好きです。
    でも友達には…。(^^;

    見世物小屋系は確かに今の世の中ではいろいろと問題がありそうですが、当時はそういう話は多かったですし、子供心に非常に怖かったですね。

    むむ、レンタルはなさそうですか、ちょっと気になりますね。

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  2. >白くじら様

    たしかに、人類の未来をちゃんと考えている点では、いいオッサンだと思います(笑)。
    まあ、お友達といいますか、お手伝いができればな・・・と。実験台が女子学生の場合に限って(爆)。

    昔のテレビ東京ではちょくちょく流れていて、私も観る度にあの見世物小屋の場面とかでドキドキしていました。

    最近、テレビでこういう刺激はないですよね。昔は世間が敏感でなかった分、トラウマに陥る機会も多かったでしょうが、必ずしもそれが悪い経験ではないと思うんです。
    もっとビビれよ今の子供!みたいな(笑)。

    ひょっとすると他の作品も店によってはレンタルされてるかも。気が向いたらぜひどうぞ~。

    コメントありがとうございました♪

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  3. Umetramanさん、こんにちは!

    >彼らを封印するような行為や考えは改めるべきでは。本当は対等に向き合うことが大事なんだと思います。

    同感です。このような映画を封印するということは「障害者向けの風俗なんてとんでもない!!」と主張するのと同じで、要するに「障害者は性欲を持ってはいけない!!」とか「美しい天使のような存在として扱うのでなければ、人目にさらしてはいけない!!」と言っているのと同じだと思います。こういうのを「差別」あるいは「偽善」と言うのではないでしょうか?

    なんてエラそうなことを言ってしまいましたが、以前『フリークス』('32)を渋谷の単館の映画館に観に行ったことを思い出しました。本作は未見ですが面白そうですね。

    応援完了!!

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  4. >快福や様
    そうですね、役はどうあれ彼らも納得の上で出演されてるはずだし、何も差別することなく1本の作品として尊重すればいいだけのことなんだと思います。
    実際、彼らは裏方では大活躍されているんですよね。彼らなしでは出来なかった作品もあるだろうに。

    おお「フリークス」ご覧になってるのですね。しかも大画面で。私はまだ未見なんですよ。いい作品だそうですね。
    お互い観てる作品、交差しちゃってますね(笑;)。

    応援コメント、ありがとうございました♪

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