●ジャンル:ドラマ/アクション/犯罪/スリラー
●上映時間:109min
●製作年:1974年
●製作国:イギリス
●言語:英語
●カラー:カラー
◆監督:リチャード・レスター
◆出演:リチャード・ハリス、アンソニー・ホプキンス、オマー・シャリフ、イアン・ホルム、デビッド・ヘミングス、シャーリー・ナイト、その他大勢(船員、乗客)
スギ花粉はだいぶ落ち着いたようですね。でも、花粉はスギだけじゃないんですよね。今度はヒノキですかなぁ。まだ暫くは無視する生活が続きそうです(笑;)。昨年買って余っていた市販薬ですが、今年も余りそうです。無視の成果が現れてます♪(←本当?
さて、今回は久々の映画記事となります。また古~いのですが、とても面白くて肩が凝る作品であります(笑)。
【ストーリー】
英国はサウザンプトン港。豪華客船ブリタニック号がアメリカに向けて出航する。北大西洋の海は荒れていたが航行は順調であった。ある朝、船会社の男やもめ専務の元に電話が入る。ジャガーノートと名乗るその男はブリタニック号に爆弾を仕込んだドラム缶を7式セットしたと言い、解除の仕方を教える代償として50万ポンドの大金を要求する。冷たい汗が流れる専務。その傍らでバブゥーと叫ぶ赤ちゃん。
政府は爆弾解除の為、英国軍のファロン中佐をリーダーとする爆弾処理班を輸送機でブリタニック号に送り込み、警察は爆弾犯人の逮捕に奔走する。運悪くブリタニック号に妻子を乗せてしまった警視は頭が痛い。船会社の専務は50万ポンドを即用意する考えだが、政府の役人はテロに屈するな、払う必要はないと言い切る。1200名の乗客の命を優先する専務は激怒する。
50万ポンドを払わなければ十数時間後には爆弾が作動してしまう。果たしてファロン中佐は爆弾を解除し、英国警察は犯人を挙げることができるのか・・・。
【感想と雑談】
これは凄い。何回観ても手に汗握れる傑作です。
ジャガーノートという名称は、まんまヒンドゥー教の破壊神の名前から取ったもので、『X-MEN/ファイナルディシジョン』では、そんなイメージまんまで壁をタックルでブチ破る暴走機関車みたいな同名キャラがいた。本作はファンタジーではないので、そういうおかしなところはないが、豪華客船をいとも簡単に沈めることのできる犯人は、これはこれで非常にたちの悪い破壊神である。
のっけからブリタニック号の出航式が描かれる。ブラスバンドが高らかに演奏し、見送る人や乗客らは紙テープを投げ合ったりするが、早くも空気が死んでいる。みな内心嬉しくないらしい。どんよりとした曇り空の下、この先嫌なことが起きることを予感しているようだ。
この時、ブリタニック号に乗る妻子らに手を振るのがジョン警視だ。演じるのはアンソニー・ホプキンス。若すぎる。後にハンニバル役を演じることを思うと感慨深いものがある。
米国の海洋パニック『ポセイドン・アドベンチャー』の大ヒットからの影響は間違いないのだが、派手さを強調するハリウッドとは随分違った印象である。英国では元々ドキュメンタリ映画が盛んだったらしく、そういう視点が根付いているのか、あまり抑揚のない淡々とした描き方をしている。その分、本物志向を貫いていて、ヘタに誤魔化そうとするところがない。
豪華客船ブリタニック号は本物の客船を貸し切り、実際に海原に出してオールロケを敢行している。本当に荒れた天候を選んで航行させ、船内や甲板の様子もセットの別撮りではなく同時に撮影しているのだ。船員や乗客らの背後に写るドス黒い海面のうねりは全て本物。スタッフに役者らのプロ根性には驚かされる。しかし、大変だったろうな。
このブリタニック号と英国本土の2つを舞台に、複数のドラマが緊張感を持って描かれる。英国本土で不快感を煽る役人に対抗する船会社の専務にはプチ応援だ。この専務役を演じるのがイアン・ホルム。犯人から電話が来ると、受話器を押さえずに脇の逆探知係に「ヤツだ」と言う。大丈夫なのか。後の『エイリアン』でグルグル回転することを思うと感慨深くなる。
警察は片っ端から関係していそうな退役軍人を尋問しまくるが、どいつもこいつも一筋縄ではいかないヤツばかりだ。
一方のブリタニック号。船長から爆弾の件を知らされ一気に落ち込む乗客ら。道化役の船員は懸命に明るく振る舞い仮想パーティを開催するも乗客らは全然乗ってこない。逃げ場のない空間に爆弾と一緒であれば当然のことだ。そんな状況下に置かれた乗客らの人間味溢れる様も丁寧に描かれる。悲観的な中にもユーモアが見え隠れしていて、ドラマに幅を効かせているのだ。こういうのが英国映画の特徴なのかな。とにかくいいと思う。
さて、大問題の爆弾である。大容量のドラム缶に爆薬と巧妙なトラップを含んだ回路が仕込まれ、ヘタに動かそうものならセンサが働き即作動という最悪な爆弾だ。犯人のジャガーノートは、デモンストレーションとかぬかし、甲板に仕掛けていた小型爆弾を作動させたりと、かなりの技術と余裕を持った人物である。この最悪の爆弾を処理するのがファロンをリーダーとする爆弾処理班である。輸送機からパラシュートで降下し、荒れ狂う海原からブリタニック号に乗り込むまでが一苦労だというのに、まだその先に修羅場が待っているのだ。
直前までファロンは右腕のチャーリーと共に博物館に仕掛けられた爆弾を処理していて、素人作りは我慢ならねぇ♪と言い鼻歌まじりに作業を進める。彼も抜群の腕を持つ人物だ。演じるのはリチャード・ハリス。大好きな役者さんである。死が隣り合わせであってもユーモアを忘れず、己の技術を信じ今日まで生きてきたという、限界ギリギリのプロの姿を見事に演じている。
本物志向の本作では、爆弾本体や処理工程の描き方も半端にはしない。まずは1式の爆弾を選び側面に遠隔から力技で穴を開けることにする。この時に使用される切削機のデザインや重量感が素晴らしい。ボンベガスの注入からドリルが回転し、潤滑液が噴射する様。この工程だけでシビれまくりだ。この時に警視の息子が閉鎖区間に入り込んでしまい、助けに入った船員と処理員の一人が爆死してしまう。息子はちゃっかり助かったりするが、ちっとも可愛くない。このガキめ!
体制を改めたファロンと処理員は、それぞれ各爆弾の前に付く。この時の彼らの装備や行動は電気工事そのものである。シンクロスコープで波形を確認しながらドライバーやニッパ、テスタ等の電工フルセットで挑むのだ。ドラム缶の側面には楕円形の蓋がネジ止めされているのだが、その蓋を外すまでが早くも一苦労だ。犯人の考えを読みながら慎重にネジを外していく。ネジが全て外れても蓋をすぐに外さずに、明かりを消してから挑む。蓋を外したところ、案の定、光センサが構えていたので、その配線を切断しやっと明かりを付けて内部の作業に入る。この時点で早くも息が詰まりそうになる。
他の処理員は、ファロンが一作業するごとに、それに続いて同じ作業を行なう。ファロンがミスを犯した場合、チャーリーが引継いでミスを訂正し、またミスすれば別の処理員が引き継いでいくのだ。爆弾の内部は武骨な電気部品がカラフルな配線と共に所狭しと配置されていて、それらを一つ一つテスターで確認しながら処置していく。
この辺り、作業工程を通してファロンと犯人のプロ同士の駆引きを黙々と追っているのが素晴らしい。また、並行して英国の本部では、ファロンとの交信から状況をトレースし、専門家が分析しアドバイスをする。こういったディテールの細かさが奥行きを出し、爆弾処理をワンマンショーに留めていないのも実にいい。
途中アクシデントが発生するも、不屈の精神でファロンは処理を続け、遂に爆弾の構造からある人物が関与していることを突き止める。英国では証拠を掴んだ警察が犯人を逮捕するが、未だ爆弾の処理は解決していない。赤のケーブルと青のケーブルのどちらを切断するかで止まっているのだ。爆弾が作動するまであと数分。脱出を命ずる本部を無視し、ファロンは犯人との会話を要求する。遂に犯人は口を開き、切断するべき色を伝えるのだが・・・。
この2色のケーブルのどちらを切断するかというサスペンス要素は、後の爆弾処理が描かれる作品に多大な影響を残したそうです。細密で電子化した現代からすると、荒削りでアナログな爆弾は古臭いの一言で片付けられるかもしれないけど、それを作ったのも処理するのも腕に技術を持った職人というところが、ドラマを形成する上で重要な要素になっていると思うのです。なので、以降の同様の作品でこれほど感動できるものはないと思っています。
後の『ブローン・アウェイ/復讐の序曲』('94)という同じく爆弾魔と処理班の戦いを描いた作品では、どんな凄い爆弾処理を見せてくれるのか♪と期待したものですが、なんと突然ヤケクソになって回路を丸ごと引き千切って解除するという、実にハリウッド的で有り得ない展開に。役者が良かっただけに非常に残念でした。
最後の最後まで命をかけた駆引き。『ジャガーノート』は爆弾処理を疑似体験できる究極の作品なのであります。
<追記 2010/8/1>
TSUTAYAで名作100選みたいな企画やってて、なんと本作がその1作品として大量に置いてありました。アピールするの遅ぇーよ。で、DVDでは未見だったので速攻レンタルしたところ、本作がつまんなかったら返金するという「おもしろ責任制」という企画もやってて、その為のアンケート用紙を渡されました。返却時に出さないといけないらしいです。返金してもらう理由は一切ない作品ですが、用紙には満足できなかった点も書け(必須)となってます。まあ、後で考えて何か書いておこう。